「早く行こうよ」
あと10年早く生まれてたらガン黒メイクをしていただろう女性が、言った。
そのときの僕はマガジンハウス社から出た糸井重里さんの特集を絶賛立ち読み中だったので一瞬はっとしたが
その言葉がすぐにラッパーもどきの彼氏に向けられていたことを理解する。
そういえば数十秒前、僕の右側から青いパーカーが本を取るために手を伸ばしていたことを思い出した。
「ちょっと待ってよ」
ラッパーが反論する。ラッパーはどうも本を読みたいらしいが、ガン黒は全く興味を示さない。
「そんな本読んだって何の知識もないあんたにわかるわけないやん!」
なかなか厳しい。ガン黒はラッパーにとってのマツコデラックスであった。
ラッパーは何の本を読んでいるのだろうか?ふと僕は目の前の本棚に目を向ける。
そこにあったのは「これからの正義の話をしよう」。
ラッパーは正義について考えているのだろうか。
ただ、確かにガン黒の言うことは正しいのかもしれない。外見で判断してはいけないが、人は見た目が9割である。
「もうちょっと待ってや」
ラッパーは正義について考えたいようだ。ガン黒はとどめをさしに行く。
「そんな本じゃなくてもっとストーリーのある、感動出来る本読んでや!ただでさえ私に優しくないのに!」
書店は静まる。
が、僕の心はわくわくてかてか。
「声でかいってお前…」
ラッパーはガン黒を鎮めに行く。その当たり前の行動に、正義が溢れていた。
ラッパーよ、お前は十分正義について考えられているよ。
「もう早くしてやー、そんな本いらんって!ためにならんって!」
しかしガン黒、そこまで言わなくていいじゃないか、哲学に触れることも必要だと思うんだよな。
ただ、これ以上ガン黒を待たすことは危険と察したラッパーは、本を棚に戻した。
だがしかし、読んでた本は「6代目 山口組」であった。
さてここで君たちに問おう。このときの正義は誰だっただろうか。
A.ラッパーをせかしていたガン黒
B.ワクテカ状態だったオレ
C.棚でニッコリ、サンデル教授
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